お茶室に生けられる花は、その季節・時期に咲く花を用います。
お茶会や茶事は季節に応じて年中行事として取り行われますから、
花はその季節感をあらわす重要なものです。
春の茶花「花筏(はないかだ)
変った名前のこの花は見た目もおもしろいお花ですが、
その名前の由来がおもしろいのです。
どうして花の筏?
花筏は森林に自生する低木の花です。
葉の上の中央に小さな花をさかせるので、
葉の上にのる花を筏に乗った人に見立てて「花筏」と呼ばれます。
また、水面にたくさんの桜の花びらが散って集まり、
流れていく姿を筏に見立てて使われる言葉でもあります。
一般的には俳句の春の季語として使われます。
そのような美しいイメージのある花筏、
その由来は実は川に流された
「骨壷」からきていました・・・
花筏と骨壷と花言葉
花筏の花言葉は「移り気」や「嫁の涙」。
桜の花びらが一面になって流れる美しく幻想的な雰囲気から一転して、
すこし物悲しさや奇妙な印象が浮かんできます。
その昔、花を添えた骨壷を筏に結び付けて川に流していました。
そのとき結んでいた紐がほどけて骨壷が水に流されると、
亡くなった人の魂が早くに浄土に向かうとされていたのです。
それゆえに、花と一緒に流れていく骨壷を「花筏」と呼んだのです。
散らばって水面を流れていく桜の花びらに、
美しさとの儚さを感じることと、
通じるものがあるかもしれません。
花言葉の「嫁の涙」とは、
姑に辛い思いをさせられた嫁が
山中で流した涙が花筏の葉に落ちて
花になった民話からきていたりします。
また「ままっこ」という呼び名で花筏を指すのは、
継母が食べ物をねだる継子に火のついた豆を握らせ、
豆が黒く焼きついた様子を花筏の黒い実に合わせているからだとか。
こうなってくると、風流な「花筏」も違った見方ができそうです。
しかし、華やかさだけが重要ではない茶道において、
花筏はその由来からして意味合いが合致するのかもしれません。
茶道における茶花“花筏”と茶入れの関係
茶道においては、立春から立夏までの
二月、三月、四月を春としています。
その季節に合わせて花や道具を取り合わせる楽しみがあります。
また、亭主・主人がその茶会における主旨を表すものを
茶室の床の間にかけるので、
花と花入はその掛物にそったものが選ばれます。
春に使う花入の主なものは、
古銅象耳(こどうぞうみみ)、獅子耳(ししみみ)、
曾呂利(ぞろり)、鶴首(つるくび)、
桃底(ももぞこ)、燕口(つばめぐち)などです。
寒さが薄れ、水ぬるむ季節にふさわしい
春の趣のある花入が選ばれます。
花筏をはじめとする春の花と花入が茶室にあることによって、
その季節感が直接感じられ、命の短い花の儚さと
自然の美しさを感じることができるのです。
早春のころには水仙や椿が多かった茶室のお花が、
だんだんと初夏にうつっていくことを肌で感じました。
茶道を習うようになってから特にその感覚は強くなったように思います。
私が花筏を見たのは、お稽古にお弟子さんの一人が
自宅のお庭からお持ちになったものが初めてでした。
もしかするとそれまでに見たことがあったのかもしれませんが、
なんとも地味なお花、というより枝でした。
小さなお花があまりにかわいらしく、
ひっそりと咲いていた可憐な姿をしばらく見つめていた覚えがあります。
骨壷や焼かれた豆という花筏の由来や
花言葉に思いを馳せてみると、
いつもとは違う感覚で
お稽古やお茶会に行くことができるかもしれません。
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