美術品として素晴らしい茶道具を所蔵している美術館は各地にあります。
中でも、茶人が収集した茶道具を展示する美術館は、
茶の湯の愛好者にとって特別な場所といえるでしょう。
茶会の流れを意識して道具を取りあわせた展示は、
当時の茶会に思いを馳せ、
コレクターの趣向を感じる充実したひと時を与えてくれます。
美術館自体にコレクターの思いと
茶の湯の雰囲気が満ちている・・と感じる美術館を、
東京、大阪で3か所ずつご紹介しましょう。
【東京】
根津美術館
東武鉄道の創業者・根津嘉一郎が収集した
コレクションを展示しています。
国宝の「燕子花図」が有名ですが、
唐物茶入の「松屋肩衝」、鼠志野茶碗 の「山の端」など
重要文化財の茶道具も数多く所蔵しています。
2階の展示室では、どの時期に出かけても、
その季節に応じた茶会の趣向で道具を取りあわせて展示しています。
また、庭園に出て石畳の小径を進むと、
樹々の間に美しい池が広がり、
茶室が点在しています。
カキツバタや紅葉の頃は特に素晴らしく、
自然の美しさも楽しめる美術館です。
畠山記念館
荏原製作所創業者の畠山一清が収集した茶道具を展示しています。
美術館の建物は、コンクリート造りに
和風建築を内包させた個性的なもので、
玄関で靴を脱いで入館します。
縁の欠けた破片が胴に付着した様子を
「からたち」の棘に見立てて銘とした
伊賀花入「からたち」、唐物茶入「油屋肩衝」などを所蔵し、
2階展示室内には、茶事の流れに沿って茶道具、
懐石の道具が展示されています。
掛け軸は床の間を拝見するような姿勢で鑑賞できるように、
畳敷のスペースの前のケース内に掛けられています。
展示室内に茶室と茶庭が設けられており、
作品を眺めながらお抹茶と和菓子を楽しめます。
五島美術館
実業家五島慶太が収集した茶道具や
東洋の美術品のコレクションを展示しています。
所蔵品では、古田織部が
「今後これほどのものはないと思う」と手紙に残した
古伊賀水指 「破袋」が有名です。
多摩川に向かう傾斜地に武蔵野の雑木林が広がり、
その中に茶室「古経楼」と立礼席「冨士見亭」が建てられています。
茶道具を中心とした企画展の際には、
美術館の展示室に「古経楼」、
「冨士見亭」の床の間の写しが作られ、
そこに茶道具を展示して、
五島慶太の茶会の取り合わせを再現します。
【大阪】
逸翁美術館
阪急電鉄・阪急阪神東宝グループの創業者
小林一三のコレクションを展示しています。
宝塚歌劇団の創始者らしく、
茶道具も華やかで
優雅な風情の道具が多いように感じられます。
中には、ベネチアングラスを
茶器に見立てたものなど、
斬新な道具も含まれています。
美術館の中の茶室「即心庵」は、
小林一三が西洋人も茶の湯を
楽しめるようにと考えて自邸に作った
茶室「即庵」を再現したものです。
点前座と床は畳、客はその周囲の椅子に座って
一服いただくというユニークなレイアウトの茶室です。
展覧会開催中の土、日、祝日には
美術館所蔵の茶道具を用いた呈茶席となります。
湯木美術館
日本料理店「吉兆」の創業者湯木貞一が
収集したコレクションが並んでいます。
茶道具が中心ですが、
料理人である湯木貞一の眼で選んだ
懐石道具に素晴らしい作品が多いのが特徴です。
皿・鉢・漆器類は吉兆で実際に使用されていたもので、
ガラスケースの中の展示に加え、
その器に実際に料理が盛り付けられた
写真も展示されていて、つい食欲もそそられます。
久保惣記念美術館
和泉市で綿織物業を営んでいた久保惣太郎氏(3代目)が、
東洋美術のコレクションと表千家の「残月亭」を写した
茶室を和泉市に寄贈したことから始まる美術館です。
美術館の建物の脇を抜け、
小さな川にかかる太鼓橋を渡り
茶室へと向かうアプローチが素晴らしく、
歩くだけで世俗と切り離された気分が出来上がっていきます。
茶室「惣庵」は非公開ですが、
「残月亭」の写しの「聴泉亭」は期間限定で公開されています。
茶道具のコレクションは、
表千家に所縁のオーソドックスなものが多いようです。
それぞれの美術館には、
収蔵品、建物や庭園などに
コレクターの個性が自然と表れていますので、
比較して鑑賞するのも楽しいでしょう。
また、季節感大切にする茶の湯に関わる美術館ですので、
四季に応じて展示替えが行われます。
一度だけ・・と言わず、
是非、何度も訪れてみてください。
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