「電熱器に釜をかけていいでしょうか?」
という質問を受ければ、答は「はい」です。
最近は茶の湯用の電熱器や電気炉が多数販売されていますので、
このような器具を使えば全く問題ないといえるでしょう。
それよりも、今は、「炭を使ってもよいでしょうか?」
という質問の方が、多いのではないでしょうか。
ほとんどの公共施設では「火気厳禁」という規則がありますし、
マンションでは煙探知機が作動してしまい、炭は使えないとことが多いようです。
「炭が使えないから」という否定的な理由からだけではなく、
釜の底が灰で汚れない、準備も後片付けも簡単という積極的な理由で
電熱器を茶の湯に使う方も増えてきています。
最近の電熱器の機能
20年くらい前は、蚊取り線香のようにぐるぐるとした
円形の電熱線プレートを炉や風呂に配置しており、
風情のある道具が並ぶ茶室で、少し浮いた存在でした。
しかし、最近のものは大きく進化し、茶道の雰囲気を大切にして、
電熱部分は炭点前直後の炭の配置を再現しています。
一段と太く大きな胴炭や白く塗られた枝炭もイミテーションされています。
胴炭の置く位置は流派によって異なりますので、
流派に応じた炭型電熱器が作られています。
最近では、遠赤外線を使っているものも販売されているようです。
電熱線を使う際に注意すること
火を使わないので安全性が高く、また、スイッチ一つでお湯を沸かす
利便性の高い電熱器ですが、茶道具として使う時にはいくつか注意する点があります。
まず、お香のたき方です。
香を直接電熱部分には、置かない方がよいでしょう。
香を入れて温める為の小箱のような
専用装置が付属している電熱器も販売されています。
あるいは、香道の道具で、香を乗せて火の上に置く
「銀葉」を使ってもよいかもしれません。
次に釜の片付ける時にも注意が必要です。
炭の場合は、中の湯を捨てて洗った後、燃えかすの残る炉、
または、風呂に再度置いて残り火で乾かします。
電熱の場合も、同様にしますが、
スイッチを切った後の余熱で乾かすようにしましょう。
スイッチを入れたままでは温度が高すぎますし、
その後、万が一、スイッチを切り忘れれば、
釜を空焚きしてしまい傷めてしまうからです。
電熱線の余熱は炭の残り火よりも温度が低いので、
釜を洗った後、乾いた布巾でよく拭いて水分を出来るだけとってから、
電熱線の上に戻すようにしましょう。
炭も扱えるようにお稽古しましょう
茶の湯用の電熱器は、電気ポットを使うのと
同じような感覚で、気軽に使える所が特長です。
友人が急に来訪したときでも、
スイッチ一つで気楽に釜の湯を沸かし、
お茶を一服差し上げることができますね。
どんどん電熱器の活用の場が広がるのも納得がいきます。
とはいえ、正式な茶事には、炭点前は欠かせません。
炭点前を披露するとなれば、羽や環の扱い方など、
覚えなければならない手順はたくさんあります。
何より実際に炭に火がつかなければお湯が沸かず、
美味しいお茶を点てるという茶事の目的が達成できなくなってしまいます。
日々の生活で炭を扱う機会がない現代人には、
炭を上手に点けるということは、思いの他、難しい事です。
炭を詰めすぎれば、空気が通らず酸素不足で火が点かず、
また、火が思ったように点いたと思えば、一気に燃えすぎて、
お茶を点てる前に燃え尽きてしまったということもあります。
普段電熱線を使っていても、機会を見つけて、
実際に火を使った炭点前の稽古を行ってみてください。
冬の寒い日、明々とした炭がともる炉に、
湯気がほのかに立ち上がる釜がかかり、
「しゅー」という釜鳴の音が茶室に静かに響くという風情は、
茶道の醍醐味の一つなのですから。
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