茶室に限らず、畳のある和室で
「縁をふまないように!」と注意されたことがあります。
幼い時は理由もわからず(誰も教えてもくれませんでしたし)、
そういうものだと思っていました。
考えてみれば、深く理由も考えずに
自然に守ってきた習慣というものがあります。
茶道のお稽古場に入るときには、
畳の縁の外に正座をしてお辞儀をします。
入室する時には畳の縁を踏まずにまたいで中へ進みます。
はじめてお稽古に行った時は、
まず先生から言われました、
「縁を踏まないように静かに入って下さい」
まちがいなく、畳の縁には
踏んではいけない理由があります!
畳の縁の柄や模様は、その畳に座る人の身分で決められていた
最高位の天皇や皇后が座る畳は
繧繝錦(うんげんにしき)の縁を使います。
赤、黄、紫、などの色に菱形や
花菱縞などのもようを織っています。
ひな人形の親王が座っている華やかな御座がそうです。
貴族や公家が座る畳は高麗縁、
白の綾地に黒で雲や菊花などの文様を織っています。
その紋の大きなものは大臣で、
小さなものは大臣以下などと決められていたのです。
神社や寺、武家や商家のの格式によっても、
縁に家紋を入れたりするので、
縁はその家を表す大事なシンボルです。
それを踏むことは先祖をないがしろにすることと同義でしょう。
茶室の畳の縁は黒の麻縁です。
修行僧の墨染めの衣を表しているのでそうなったようですが、
また、このような縁の染めや織りはとても高価で傷みやすく、
踏むと傷んで色もあせてしましまいます。
何より、座っている人を尊ぶという心から、
大切な縁を踏まないようにしているのです。
四畳半の茶室の畳には固有名詞がある!
中国から禅文化と一緒に茶の風習が日本に入ってきました。
当時の茶人は禅院で修業をしており、
儒学に必要な四書五経行(ししょごきょう)を学んでいました。
五経の一つである『易経』の易という学問は、
陰陽五行の元となったものです。
茶室の四畳半には陰陽五行思想が組み込まれています。
床の間、貴人畳、客畳
炉畳、点前畳、道具畳、踏込畳
それぞれの畳の座につくことで思索を行うのです。
つまり、畳の縁はそれぞれ意味のある空間を
区別するための結界でもあるのです。
だから、お茶を出す時は縁外に茶碗を置き、
客の空間へお茶が受け渡されるのです。
亭主と客の区別を明確にする重要な縁は、
踏んでしまってはいけないのです。
踏んではいけないもの、またいではいけないもの
ふだんの生活の中に踏んではいけないもの、
またいではいけないもの、案外少なくありません。
たとえば・・・
座布団を踏んではいけない
座布団は本来おもてなしをするために
お客様に出すものですから、
当然踏んではいけないものです。
子どもが座布団を飛び石のようにして
踏み飛んでいましたが、言語道断の行為ですね・・・
竹刀をまたいではいけない
剣道の竹刀は自分を守る大切な道具。
稽古の休憩でトイレに走りたくても、
床に置いた竹刀をまたぐと先生から雷が落ちること必至です。
お茶のお稽古に子ども達が来た時、
先生はお茶碗をまたいじゃだめ!畳をふまない!
と優しく注意されていましたが、
お茶碗ぎりぎりの場所を歩きだすのを見て、
内心ハラハラなさっていたことと思います・・・
本(文字の書いてある物)を踏んだり、下にしてはいけない
本を枕にするとアタマがよくなる、
と聞いたことがありますがわが家では逆でした。
本を下に置く、踏むとアタマが悪くなる!と。
どのようなものにしても、
その教えの根底には相手を敬い、
思いやり、人やものとの関わりを大切にする心があるのですね。
茶道でさらにそれを学んで、周りの人に伝えたいものです。
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