茶道では様々なお道具を使いますね。
それぞれの道具を制作するのは、
専門技術を持った職人の方ですが、
中でも、表千家・裏千家・武者小路千家の好みの道具を
代々にわたって制作している
十の家のことを特別に「千家十職」と呼んでいます。
千家十職が固定したのは江戸時代後期
千家の道具を制作するのは、
江戸時代の中ごろまでは十職の家に
固定されていませんでした。
但し、家元も、腕のよい職人と
気心の知れた密接な関係を築き
好みのものを作らせていたため、
自ずから出入りする工房は
絞り込まれて行きました。
天保11年(1840年)の
利休250年忌茶会に招かれた顔ぶれは
今の千家十職とほぼ同じであり、
この頃までに千家出入りの工房が
固定してきたものと考えられています。
なお、「千家十職」という呼称は、
大正時代に松阪屋百貨店で、
家元好み道具の展観がおこなわれた時にはじめて用いられ、
以降、その名称が定着したそうです。
十職の名前と制作する道具を覚えよう
「千家十職」は、その家毎に制作する茶道具が決まっており、
また、代々、当主の名前を継いでいきます。
この機会に、ぜひ、十職それぞれの当主のフルネームと
制作担当する道具類を覚えましょう。
奥村吉兵衛(表具師) -掛軸、風呂先屏風などの紙製品
黒田正玄(竹細工・柄杓師) - 花入、蓋置などの竹製品
土田友湖(袋師) ―服紗、仕服など布製品
永樂善五郎(土風炉・焼物師) -土風呂(陶器製の風呂)、
色絵付の茶碗や水指などの陶器
樂吉左衞門(茶碗師)―楽焼の茶碗
大西清右衛門(釜師)―釜を主体とする鉄製品
飛来一閑(一閑張細工師)―菓子器、棗などの一閑張の製品
中村宗哲(塗師)―棗、菓子器などの塗物。
中川淨益(金もの師)―建水などの金工品
駒澤利斎(指物師)―棚、炉縁などの木製品
家元「好み」の道具作りの為に欠かさない努力
茶道では、茶人自らがデザインし、意匠や色などを
職人に指示して作らせた道具を
「●●好み」の道具と呼びます。
当代の家元の好みを織り込む「好み物」作りが、
十職の重要な仕事です。
家元の「好み物」を「本歌」とした「写し」は、
十職以外の工房でも制作され、
多くの茶道の愛好家に普及していきます。
それだけの影響力のある家元の「好み物」ですので、
十職の人々は、技術を磨くことは当然として、
家元の意に沿った道具を
制作することを求められます。
十職の当主は、家元の趣味を十分に理解する為、
定期的に家元を訪れて情報収集を行っています。
表千家では、月の初めに十職が集まり、
薄茶一服を広間で頂きながら、
家元の意向を尋ねたり、
過去の作品の出来栄えについて
意見を伺ったりするそうです。
伝統を受け継ぎながら自分の作風を確立
十職の重要な仕事が家元の好み作りだからといって、
彼らは伝統の技法を受け継いだ職人として
それらを制作するだけではありません。
創意工夫を加え、自分自身の個性を発揮した
芸術性の高い作品も、自らの名前で制作しています。
新しい技法も開発し、さらには、現代の要望に沿った
新しい茶道具も制作しています。
単なる職人に止まらず、
かつ、自由な作風の芸術作家とも違う
千家十職の各人の制作姿勢は、
永い歴史を持ち、代々技術を
継承してきた立場や気構えが支えているのです。
作品を観ることが千家十職を覚える近道
ぜひ、茶道具の美術館や骨董店などで、
歴代の十職の制作した道具を鑑賞してください。
そこには、伝統や家元の意向とともに
各々の個性が発揮されています。
例えば、黒の楽茶碗をとっても、色、形、釉薬の輝き方、
箆の削り方・・などにそれぞれ特長があり、
同じものは一つとありません。
実際の作品を見ることが、
千家十職を覚え、理解するための
一番の近道といえるでしょう。
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