「お茶を入れましょう」は、
普段よく耳にするフレーズです。
緑茶もコーヒーも「入れる」ですが、
抹茶だけは「点てる」と書いて「たてる」と言います。
また、抹茶を点てる手順を「点前」といいますが、
ここでも「点」の字を使っていますね。
「点」の字を、「『た』てる」、「『て』まえ」と読ませるのは、
抹茶に関わる時だけの特別な使い方のようです。
抹茶は他のお茶と何が違うのでしょう?
なぜ、抹茶に関わる言葉に「点」の字をあてるのでしょう?
「お茶を入れる」と「お茶を点てる」の違い
煎茶は、茶葉を急須に入れてお湯を注ぎ、
葉が開いた頃に葉をこして、水分だけを茶碗に注ぎます。
麦茶は鍋ややかんで煮出しますし、
コーヒーは豆をグラインドしたものをフィルターに入れ、
その上からお湯を注いで抽出します。
煎茶、麦茶、コーヒーともに、葉や豆自体は飲まず、
そこから抽出された成分の混ざった水分を口に入れます。
抹茶は、粉末にした茶を茶碗に入れ、
そこにお湯を注いで撹拌して飲みます。
茶こしやフィルターでこすことはなく、
抹茶は、茶葉そのものを飲むのです。
中国が由来の「点茶」
抹茶のように、茶葉を薬研などで碾いて細かくし、
粉末状態となった茶を茶碗に入れて
お湯を注ぎ均一に攪拌して飲む方法を、
中国では「点茶」と呼び、宋の時代に生まれました。
点茶は眠気を抑制し、
修行に励むのに適した飲み物として禅寺で広まります。
鎌倉時代に宋へ留学した栄西は、
この新しい喫茶法を日本に伝えます。
そして、栄西は、広く茶の効用を知らしめるために、
「喫茶養生記」という書を発表します。
さらに、二日酔いに苦しんでいた将軍源実朝に
一碗の茶を差し上げて気分を治したという出来事も奏功して、
日本では、点茶は禅寺に留まらず、
武士階級にも広く普及していきました。
一方、中国では、明時代、
茶を入れた急須にお湯を注ぎ茶碗に注いで飲む、
今の煎茶と同じ飲み方が普及します。
そのため、点茶は明時代には廃れてしまうのでした。
「たてる」から「点てる」へ
鎌倉時代に栄西が日本へ伝えた点茶は、
その後、足利幕府に受け継がれ、
千利休の時代には今の「点前」の基礎が確立します。
「茶をたてる」、「てまえ」という言葉は、
早い時期から使われており、
当初は「立てる」「手前」と書かれていました。
「点てる」「点前」と「点」の字を使うようになったのは、
江戸時代後期からのようで、
中国語の「点茶」を「茶ヲ点ズ」
と読み下したことに由来しています。
また、茶人としても有名な幕末の大老井伊直弼は
「点前」と書いて「たてまえ」と読ませていたそうです。
その後、しだいに、「点前」は、「てまえ」と読まれるようになり、
一方で「たてる」には「点てる」という字が当てられました。
その後、この使い方が、一般的に使われるようになったのです。
「茶を点てる」と「点」の字を使うようになったのは
150年程度以前のことのようです。
栄西が「点茶」を伝えてから
800年以上という長い茶の湯の歴史の中では、
「点てる」という言葉の用い方は意外と歴史が浅いと言えますね。
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