薄茶に用いられる、抹茶を入れた器を薄茶器、又は茶器と呼びます。
茶器の中で、一番代表的な形が『棗(なつめ)』と呼ばれるものです。
なつめは果樹の名で、この実に形が似ていることから、
棗と呼ばれるようになりました。
漆で塗られたものが一般的で、
木地や竹、象牙、特殊なものとして焼き物などもあります。
柄は、無地をはじめ、蒔絵が施されたものまで多彩です。
棗の種類
棗には、『大棗(おおなつめ)』・『中棗(ちゅうなつめ)』
『小棗(しょうなつめ)』・『平棗(ひらなつめ)』
と呼ばれるものがあり、これらは棗形になります。
その他、中次形(なかつぎがた)と呼ばれるものがあり、以下の種類があります。
真中次(しんなかつぎ)
円筒形で胴の中央部に合口(蓋と身の合わせ目)がある。
真中次は、仕服をかけると濃茶にも用いることが出来ます。
面中次(めんなかつぎ)
真中次の蓋を、面取りしたもの。
茶桶(ちゃおけ)
面中次の蓋を浅くしたもの。
雪吹(ふぶき)
茶桶の身の裾も面取りしたもの。
※雪吹は、天と地が分からないほどの吹雪を意味しますが、
文字を「吹雪」ではなく、「雪吹」と逆に書くのは、
これも天と地が分からないという遊び心からです。
棗の塗りについて
棗は元々、無地黒塗のシンプルなものでしたが、
各時代の茶人の好みによって、
溜塗・一閑張り・蒔絵などが用いられるようになりました。
黒塗(くろぬり)
黒漆を使い、黒く仕上げた漆器のことをいい、
全て黒く仕上げたものを『真塗(しんぬり)』といいます。
※黒漆(くろうるし)とは、生漆(きうるし)に鉄分を加え
化学反応を起こさせ、漆を黒くしたもの。
溜塗(ためぬり)
下地に朱色を塗っておき、
その上に透き漆(すきうるし)と呼ばれる半透明の漆を塗って仕上げたもの。
溜塗の醍醐味は、時の経過と共に、赤色が増す変化を楽しむことが出来ることです。
一閑張(いっかんばり)
中国の『飛来一閑(ひきいっかん)』が考案し、
木型に和紙を張り合わせ、十分に乾燥させ形が整った後に
型を抜き取り、漆や渋柿を塗り完成させたもの。
蒔絵(まきえ)
漆の装飾方法の一種で、漆で絵付けや色付けをした後に、
金属の粉を蒔いていく技法を蒔絵といいます。
棗の扱いについて
棗は、形によってお茶の入れ方が変わってきます。
大棗・中棗・小棗
少し真ん中を高く、そして丸く盛ります。
平棗
小さな山のように盛ります。
雪吹
杉の立ち木のように、とがらせて盛ります。
この盛り方を、杉形(すぎなり)といいます。
棗の持ち方も、形によって違ってきます。
棗
右斜めから持ちます。
中次・茶桶など
横から持ちます。
棗を使用した場合、その日のうちに手入れすることが非常に大事です。
これは全ての茶道具においていえることですが、茶道具はデリケートなものだからです。
抹茶は、湿度や気温によってカビやすいものなので、
使用した後は、中に残っているお茶を全て出し、柔らかい布やティッシュで拭いておきます。
塗り物なので、水洗いすることは絶対に避けましょう。
面倒に思われる手入れですが、道具を大事にする心は、
日頃のお点前や『おもてなし』の心にも繋がるので、意識することが大事です。
棗は、素材によって値段が違ってきます。
中には、プラスティックにプリントを施したものもありますが、基本は木製です。
値段が張るものは、合口がしっかりと揃っており、
蒔絵の種類や技術の精巧さが鍵となります。
また、有名な作者のものや、家元の書付などがあると、
その価値は一気に跳ね上がり、非常に価値の高いものとなります。
棗の見どころは、亭主の趣向による棗の取り合わせ方、
そして棗そのものの姿・色合い・施された蒔絵の技術などです。
棗に広がる世界観は、棗それぞれで違うものなので、
作者の持ち味を感じ取って下さい。
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